「女の子だってヒーローになれる」『HUGっと!プリキュア』が提示する新しい価値観
アニメといえばいまだにガンダムかエヴァな人のためのアニメガイド
■既成概念と戦う「プリキュア」
「プリキュア」なんて子供向けのアニメでしょ? そう思う人は多いでしょう。でも、2018年2月から2019年1月まで放送されたシリーズ第15作目『HUGっと!プリキュア』(以下HUGプリ)は、メッセージ性が強い作品として大人たちの間でも話題になりました。
プリキュアとは、日曜朝に放送されている女児向けアニメで、中学生くらいの女の子の登場人物がプリキュアと呼ばれる不思議な力を持った存在に変身して、敵と戦うバトルシーンや、女の子たちの日常シーンが描かれています。魔法少女もののアニメや『美少女戦士セーラームーン』のような作品のイメージにも近いでしょう。本作ではセーラームーンでシリーズディレクターを務めた佐藤順一監督もシリーズディレクターの一人として名を連ねています。
女の子がプリキュアへ変身すると、フリフリでキラキラした、お姫様やアイドルの衣装のような格好になります。でも、プリキュアは王子様に守られるお姫様でも「ヒロイン」でもありません。プリキュアとは戦って、みんなを守る「ヒーロー」なんです。
HUGプリ第19話では、こんなセリフも出てきます。
「女の子だって、ヒーローになれる!」
「男の子だって、お姫様になれる!」
このセリフに対しては「プリキュアがジェンダーに切り込んだ」と、ネット上、SNS上で話題になりました。
登場人物の一人・若宮アンリというフィギュアスケート選手の男の子は、性別を超越した美しいルックスを備えた美少年です。日頃から女物のファッションを取り入れることもあって、周囲から何を言われても「僕は自分が着たいものを着る」と自分を貫きます。
「女の子だってヒーローになれる」をテーマにしたファッションショーに、アンリは特別ベストとして、女物のドレスを着て出演します。ファッションショーを見たアンリの友人は「おかしい」「ヒーローは男のための言葉だ。女の子はヒーローになれない」と言い、ドレスを着たアンリを見て「君、男だろ?」と鼻で笑います。そんな正人に対して、本作の主人公・野乃はなは「誰の心にだって、ヒーローはいるんだよ! 人の心を縛るな!!」と反論し、アンリは「僕は、自分のしたい恰好をする。自分で自分の心に制約をかける、それこそ時間、人生の無駄。」と受け流します。男、女という区別からの自由を貫いたアンリは、第42話ではついに、一回限りのゲスト扱いながら、史上初の「男の子のプリキュア」に変身することになるんです!
HUGプリのキャッチコピーの一つに「なんでもできる! なんでもなれる!」というものがあります。でも、現実には何かをやろうとすると、特にそれが常識や既成概念からかけ離れたものであればそれだけ、冷笑され、バカにされ、制約を受け、妨害されてしまうものです。それは他人からのものだけでなく、自分自身に対するものであることも多々あるでしょう。
でもHUGプリは視聴する子供たちに対して伝えます。女の子だからこう、男の子だからこうでなきゃいけないなんてことはないんだよ。誰に何を言われても、自分が「なりたい自分」になれば良いんだよ……と。